1.はじめに

  1. リスニングの上達について

    リスニング中の画像 リスニングはどうしても日本人にとって鬼門です。日本語は,同じ長さの音節が数珠つなぎになって並んでいるのに対して、英語の場合、強勢のある音節が等間隔に並び、強勢のない部分は弱化されてグシャッと圧縮されてしまうために、なかなか聞き取れません。従って、ネイティブ・スピーカーの英語を聞く際には、まずそのような独特のリズムに慣れる必要があります。

    ではどうしたら、リスニングを上達させることができるのでしょう。

    「とにかくいつでも英語を聞け、そして慣れろ」というのでは、「まあ、座れ」と言う禅の和尚みたいなものですから、少しでも具体的にコツをいくつか述べてみます。

    1. 無理に特殊な表現を完璧に覚えようとしない

      あまりにも口語的なものを、完璧に覚える必要はありません。例えば、2012年11月5日のNHKの『ラジオ英会話』では、

      I’m in a pickle!  まずいことになった!

      という表現が「今週のフレーズ」ということになっていますが、pickleという語の意味が分からなくても実際には、前後から読み取れることが多いでしょう。

      確かにある程度の数のidiom等は覚えるに越したことはないでしょう。しかし、必ずしも全てを覚える必要はありません。従って上記のような場合は、表現を覚えるというよりはむしろ、全体として意味をつかむようなことを重視して聞くべきだと思います。英語の標準的なリズムで語られたものに慣れ、より一般的な表現を身につけることが、何よりも大切です。

    2. 視覚を省いた、聴覚のみの教材が意外に効果的

      コミュニケーションにおいては、聴覚よりも視覚に頼ることが多いものです。洋画などを観ているだけでは、なかなかリスニングがうまくならない理由の一つには、視覚的な影響が強すぎることが挙げられるかもしれません。そこで語られている音声・聴覚情報より情報量の多い視覚情報に私たちの注意が向けられてしまうからです。

      そこで、聴覚のみの教材(音声教材、ラジオ番組など)が俄然、リスニング力を鍛えるという点では、オススメ度が高くなります。聴覚情報のみですから、自然とリスニング自体に意識がいくわけです(注1)。

      注1:とは言うものの,最近では動画付きのものも増えていますので,以下にご紹介するものの中には動画付きのものもあります。

    3. 最近では英語も国際的になってきているため、必ずしも標準的な英語のみでなくなっている

      標準的な英語のみを扱っているのではなく、英語としてさまざまなバラエティがある表現が用いられている番組なりサイトを聞いてみることも、大切です。例えば、後述するBBCのサイトのThe Flatmatesでは、ポーランド人などが出てきますが、本当に無理せず、訛りがあるままの英語の発音をしています。こうした教材は私たちに、必ずしもネイティブの発音のみが聞き分けられればよい、ということではないことを教えてくれます。

    4. 速さ、connected speech等に慣れることを考える

      実際のところ、日本人が英語を聞く際に問題になるのは、英語のリズムが違うことで、これにより内容がつかみにくくなるということが多いです。これを防ぐには、どうしても英語独特のリズムに慣れる---つまり、弱化される音節がどのように発音されるかに注意することが、必要となってきます。一例を挙げますと、

      This is the house that Jack built.

      では、this, house, Jack, builtを中心に聞き取ることが大切です。逆に言えば、その他のところはそんなに重要ではないので、聞き逃しても大きく問題はありません。

    5. 少しうまくなったらシャドウイングを

      シャドウイングとは、聞き取った英文の後をなぞるように、自分で英語を発音しながらついていく練習を言います(注2)。これは英語の発音をマスターしてからやるべきなのですが、これをやると、英語のリズム、イントネーションが身につきます。production(実際に発話してみること)によってperception (実際に知覚すること)が可能になるのですから、ある程度しっかりした、模範的な教材を使って練習することが重要です。発音できる音は聞き取れる、ということが、根底にあるわけですね。

      注2:さらにスピーキングの上達を一挙両得で狙うのであれば、シャドウイングしている自分の声と教材の声を、携帯やPCの「ボイスメール機能」「録音機能」を使って録音してみましょう(リスニング教材をこまめに止めながら、その後について発音してみてもOKです)。リスニング教材の英語と、自分がしゃべる英語の両方の録音を自分の耳で聞いて比較して、自分の発音、リズム、イントネーションのどこが違うのかを客観的に分析する。そして自分の英語が教材のそれに近づくよう、録音で確認しながら、繰り返し練習してみてください。

  2. このハンドブックの使い方

    今は無料で公開されているサイトに、リスニング教材として役に立つものが多々あります。以下では、リスニング学習におすすめの無料サイトを紹介していきます。

    以下で紹介するうち、4の「チャレンジ!」以外のサイトは、特に断りのないかぎりすべて台本(text, transcript)がついています。また動画の場合であれば、英語字幕(subtitle, caption)機能がついている場合もあります(字幕機能のon/offは、動画画面下のバーの右あたりにあるアイコンをクリックして操作してください。ただしcaptionの正確さには、サイトによってかなりの開きがあります)。podcast(注3)対応のサイトも多くあります。

    でも最初は必ず、台本や字幕を見ずに聞き取りに集中すること!!字幕機能をonにしてしまいますと、どうしても英語の聞き取りがおろそかになってしまいます。従って,台本をみたり字幕機能をonにして自分の理解を単語単位で確認したい場合は,何度も繰り返し聞き取りをして、付属の問題等もやってみた後にするようにしましょう。

    PC、スマホ等を使い分けて、賢く安くリスニングを学習しましょう。

    注3:podcastとは、RSSを使ってインターネットを通じて配信される番組。PCやスマホにiTunesなどをダウンロードし、個々のpodcastを登録(subscribe)しておけば、随時最新番組にアップデートされ、それをオンデマンドで(視聴者の都合のよい時に)視聴できます。podcastには、音声のみのaudio-podcastと動画も含めたvideo-podcastがあります。