法政大学国際文化学部
情報システム概論
担当 重定 如彦
2008年9月23日
第1回 コンピュータの歴史と分類
1. はじめに
情報システム概論ではコンピュータがどのようにして情報の処理を行っているかについて、ハードウェアとソフトウェアの両面から学びます。情報リテラシーI、IIの授業ではコンピュータの基本的な使い方について学びましたが、情報システム概論ではコンピュータの仕組みや歴史についてより深く学びます。
授業では、初めにコンピュータの歴史的な発展過程について学び、次に基本的なコンピュータのハードウェアの構成を学習します。そして、コンピュータを動かしている基本ソフトウェア(OS)についてその構成を学び、最後にコンピュータで膨大な情報を処理する際に欠かすことのできないデータベースについて学習します。また、この科目は情報処理技術者資格の基本情報技術者試験の取得を目指す科目でもあります。
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単位について
欠席は最大3回まで。
成績は出席点、レポート、小テスト、期末試験の総合評価。
出席点にはそれほど大きなウェイトはおかない。
→全部出席したからといって良い成績がつくわけではない。
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教科書
「標準 コンピュータ教科書」 河村 一樹 他著 オーム社
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参考書
「痛快! コンピュータ学」 坂村 健 著 集英社文庫
2. 出席とレポートについて
出席は教室のコンピュータにログインするだけで自動的に出席をとるシステムがありますので、ログインするだけでOKです。
レポートは電子メールで行います。
メールの件名は以下のようにしてください。
「情報システム概論 ○月○日 レポート」
本文には最初の1行に以下を必ず書いて下さい。
学科、学年、名前、学籍番号
本文の2行目以降にレポートの内容を記述して下さい。なお、レポートをワードやExcelなどを使って作成した場合は添付ファイルにして送って下さい。レポート提出のアドレスはTAさんのメールアドレスに送って下さい。アドレスは黒板に書きます。
メールの本文には特に挨拶などは書かなくてもかまいません。
また、出席やレポート以外にも、授業に対する意見や質問があればできるだけ返事をしますので気軽に私のメールアドレスsigesada@hosei.ac.jpへ送って下さい。
3. コンピュータと計算
計算機が登場するまでは、すべての計算は人間が手で筆記用具などを用いて行う必要がありました。しかし、人間が計算を行った場合、計算にはミスがつきものですし、例え単純な計算でも量が多くなると人間の根気が続かず著しく効率が落ちてしまいます。すでに紀元前の頃から天文学や建築学などの専門的な分野では、日常生活においても給与計算、収支計算など様々な場面で計算が必要とされていました。これらの計算は、時代とともにその計算量は増加し、計算の内容も複雑になる一方であったため、それまでのように紙などの上で手で計算する事が次第に困難になってきました。そこで、計算を行う為の道具を作り、人間のかわりに計算をさせようという試みがなされてきました。こうした試みの末に生まれてきたのがコンピュータです。コンピュータは日本語訳の「計算機」が示すとおり、文字通り計算を行う為に作られた機械です。計算能力に関してコンピュータと人間を比較すると以下のような違いがあります。
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コンピュータの計算速度は人間よりはるかに高速である。
高性能なコンピュータは1秒間に数億回以上の単純な計算が可能です。
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コンピュータは基本的に計算ミスをしない。
プログラムミス、コンピュータ自体の設計ミス、過酷な条件での使用などの原因により間違った答えを出す可能性はありますが、ほとんどは人為的な問題が原因です。
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コンピュータは人間と違い、休息を必要としない。
どれだけ計算の量が多く、どれだけ時間がかかっても(たとえ永遠に終わらなくても)コンピュータは指示された計算を最後まで計算を行おうとします。
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コンピュータは人間のように自らものを考えることは出来ない。
漫画や小説のように、自分でものを考えて行動を行うようなコンピュータは、残念ながら現在でも実現していません。コンピュータに仕事をさせるためにはプログラムなどによってその手順を細かく指示する必要があるということです。例えば、レポート課題をやってくれといっただけでレポートを書いてくるような万能なコンピュータは存在しません。
コンピュータを使うことによってはじめて可能となった計算には例えば以下のようなものがあげられます。
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オリンピックなどの記録の素早い集計
今日ではオリンピックなどの競技の記録は、選手が競技を終えると同時にコンピュータによって計算されて結果が瞬時に発表されますが、コンピュータがはじめてオリンピックで使用された東京オリンピック以前のオリンピックでは、人間が手作業で膨大な結果を集計していたため、競技によっては最終的な記録が発表されるまでに、実に数ヶ月もの時間が必要とされていました。
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天気予報
天気予報は、地球上の何万もの地点の気象データを計測し、それらのデータをもとに何億という膨大な量の計算を行うことで、予報を行っています。これを人間の手で行った場合何年もかかってしまい、明日の天気予報の結果が一年後までわからないのではまったく使いものになりません。コンピュータを使うことではじめて明日の天気予報を今日知ることができるようになったのです。余談ですが、それだけ大変な計算を行ってもご存知のように天気予報は100%当たるわけではありません。正確な天気予報を行うのは現在の技術でも不可能なくらい大変な量の計算が必要なのです。
上記の例以外にも今日では様々な作業にコンピュータが使われています。それでは、まずこのコンピュータがどのようにして発展したのかその歴史について述べることにします。
4. コンピュータの歴史
東京理科大学のウェブページ(http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/~infoserv/museum/index.html)に様々な計算機が図解つきで説明されていますので、こちらも参考にして下さい。
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計算具
計算の為に発明された最初の道具は、紀元前に中国で発明されたそろばんであると言われています。そろばんは数字を玉の位置で表した道具で、今でこそほとんど使われなくなりましたが、電卓が普及する数十年前では現在の電卓と同じように一般に計算に使われていました。最も基本的な教育を表す「読み書きそろばん」という言い回しからも、昔の日本人がいかにそろばんを大事に考えてきたかをうかがうことができます。ちなみに、そろばんの熟練者と電卓を持った人が読み上げられた数字の足し算を行う競争をすると、電卓を使うよりも早く答えを出すことができるようです(実際の計算は電卓のほうが速いが、電卓のほうが数字を入力するのに時間がかかるため)。そろばん以外にも、数を計算するための様々な計算具が世界各地で発明されていましたが、それらの計算具で行える計算は足し算、引き算がメインであり、それよりも複雑な計算を行うことができる計算具も、複雑な手順でやっと掛け算と割り算が行える程度でした。
足し算、引き算よりも複雑な計算を道具を使って行うことができるようになったのは、1633年に英国で計算尺とよばれる道具が発明されてからです。計算尺はスライド式の細長い棒で、棒に目盛りがついており、棒をスライドして目盛りを合わせることにより乗除算だけでなく、対数(log)、三角関数(sinなど)などの複雑な計算を行うことができました。
参考: 計算尺に関するウェブページ
http://www.pro.or.jp/~fuji/profile/sliderule2.html 鮮明な計算尺の画像
http://www.imasy.or.jp/~yotti/fool/sliderule.html 計算尺の具体的な使用方法
これらの道具は計算する数値を入力した後、答えを出すためには人間が頭を使いながら手作業で操作(そろばんをはじいたり、計算尺の目盛りを合わせたりする)する必要がありました。このような道具のことを「計算具」と呼びます。
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歯車式計算器
計算具に対して、データを入力した後の計算を器械が行うものを計算器と呼びます。最初に実際に作られたことが確認されている計算器は1642年にパスカルが考案した歯車式計算器です。この計算器では数値を入力した後、レバーを回すことで器械の中の歯車が回転し正しい答えを表示してくれるというものでした。計算具との大きな違いは数値を入力した後にレバーを回すだけで頭を使わなくても答えがでる点です。
代表的な歯車式計算器
*パスカルの歯車式計算器(1642): 最初の計算器。加算を行うことが可能
*ライプニッツの乗除計算器(1671): 歯車式で、乗除を行うことが可能
*バベッジの計算機(1834): 蒸気機関を動力にした計算器
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電気式計算器
歯車式計算機では、人間が手でレバーなどを回して計算する必要があり、数多くの計算を行うのは大変疲れる作業でした。そこで、電気の発明に伴い、電気を動力として計算を行う器械が発明されました。また、計算処理に時間のかかる歯車から、リレーと呼ばれる電磁石を使って金属片のスイッチのON、OFFを行う部品を使い、電気が流れているか流れていないかによって数字を表し計算を行う、より高速な機器が使われるようになりました。
リレーとはリレー競争のrelayと同じ単語で、リモコンでテレビの電源をつけるように、実際に操作したい機械のスイッチとは離れたところにある別の装置のスイッチの操作によって、離れた場所にあるスイッチを操作することができるような装置のことです。
スイッチのONとOFFによって何故数字を表したり、計算したりすることができるかについては次回以降の授業で説明する予定です。
(参考HP http://www.omron.co.jp/ecb/products/pry/ry_tech/a.html)
代表的な電気式計算器
*ホレリスの統計計算器(1886): 統計計算用の電気式計算器。米国の国勢調査
の集計に利用された。
*エイケンのMARK−1(1944): 歯車ではなく、リレーを使った高速な計算器
23桁の加減算を0.3秒で行ったといわれる
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計算機
リレーは歯車式よりは高速に計算を行うことができましたが、金属片のスイッチを物理的に切り替えることによって器械を制御していたため、速いとはいっても歯車式と比べて数倍程度の速さしか得られませんでした。余談ですが、リレーを使った計算機は金属片が打ち付けられるためにかなりの音が発生したそうです。
リレーの次に登場した計算部品が真空管です。真空管は現在ではテレビのブラウン管以外ではあまり使われていませんが、電子の流れを制御することによってスイッチのON、OFFを行うことにより、物理的な金属片のスイッチを使ったリレーとくらべ数百倍といった非常に高速にスイッチの切り替えを行うことができます。電子式の計算機の登場によって、計算の速度が飛躍的に伸びました。そこで、それを区別するために電子式以前のものを計算器、以後のものを計算機(又はコンピュータ)と区別して呼ぶことがあります。
参考: http://www.geocities.co.jp/Technopolis/1547/principle.html 真空管の原理
世界初の計算機は1946年にアメリカのペンシルバニア大学で開発されたENIAC(エニアック)です。ENIACは大砲の弾道計算のために作られた計算機で、長さ45メートル、幅1メートル、高さ3メートル、重さ30トン、そして真空管を1万8000本もつかった途方もなく巨大なコンピュータで、MARK-Iの100倍の計算能力を持っていました。
その後1949年にアメリカのケンブリッジ大学で世界初のプログラム内蔵方式の計算機であるEDSAC(エドサック)が開発されました。ENIACは計算の手順の指示を機械の配線を組み合わせるという方式で行っていたため、別の計算を行う為には機械の配線を一々組み替えてやらねばなりませんでした。この作業は非常に大変で、組み替えるだけでも数人の人間が何日もかけて作業を行わなければばらなかったようです。これに対しプログラム内蔵方式の計算機は、計算手順を記したプログラムを紙テープなどに記述し、それをコンピュータの記憶に読み込ませてから実行します。プログラム内蔵方式の発明により、実行するプログラムを簡単に入れ替えたり、一つのコンピュータの中に複数のプログラムを入れておき、プログラムを指定するだけで一つのコンピュータで様々な計算を行うことができるようになりました。プログラム内蔵型のコンピュータのことを別名でこの方式を考え出した人物のうちの一人の名前をとって「フォンノイマン型コンピュータ」と呼びます。現在もなお、ほとんどのコンピュータがプログラム内蔵方式で作られています。現在のコンピュータが、ワープロ、ウェブブラウザ、電子メールソフトなど、様々な機能を持つことができるのは、プログラム内蔵方式のおかげです。
〜コンピュータの発明と戦争〜
ENIACの開発が始まった時代はちょうど第二次世界大戦の真っ只中であり、当時最も必要とされた計算は、大砲の弾道の計算でした。大砲の弾道はただ撃てばあたるというものではなく、砲弾の発射角度、空気の温度や湿度、風向きなど様々な要素をもとに計算を行わなければなりません。当時はそれを計算するために「発射表」と呼ばれる数表を頼りに発射角度を決めていましたが、この発射表をつくるにはとても高度で複雑な計算が必要でした。また、武器の種類によって当然この発射表の内容は異なります。当時のアメリカではこの発射表の作成が追いつかないという事態に陥り、そこでこれまでにない高い計算能力を持つ新しい計算機であるENIACの開発が急遽なされたのです。こうしてつくられたENIACの計算能力は当時としては画期的で弾道計算では実際の砲弾が着弾するよりも早く弾道を計算できたと言われています。
実は世界最初のコンピュータはENIACではないという説もあります。しかし他の世界初といわれるコンピュータも、戦争で使われていた暗号を解読する為に開発されたものであるなど、世界最初のコンピュータと戦争には密接な関係があるようです。
5. 計算機の機種による分類
プログラム内蔵方式のEDSACは現在のコンピュータの原型となる計算機でした。EDSACの開発後、様々なコンピュータが開発されましたが、それらのコンピュータは様々な方法で分類することができます。まず初めに機種による分類を紹介します。
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メインフレーム
プログラム内蔵方式のEDSACの開発後、第二次世界大戦の終結にともない、コンピュータを商用に利用するための開発が行われました。これらのコンピュータはメインフレーム(汎用大型コンピュータ)と呼ばれ、事務処理から科学技術計算までなんでもできる(汎用)機械として開発されました。メインフレームは非常に巨大なシステムで、厳重に鍵が掛けられた計算機室と呼ばれる空調設備の整った大きな部屋に置かれるのが普通でした。また、誰もが使えるようなものではなく、特定の技術者しか扱えない複雑なもので、値段も数億円と非常に高価でした。
代表的なメインフレーム
*UNIVAC-1(1951): ENIACの考案者である、モークリーとエッカートが
開発した商用計算機
*IBM社製品(1957〜): コンピュータメーカの登場
事務計算機 IBM14XXシリーズ
科学技術計算機 IBM70XXシリーズ
事務計算、科学技術計算両用(1964)
IBM360シリーズ(1964)
IBM370シリーズ(1971)
*NEC、富士通、日立などの日本製互換機:
IBM370シリーズに対抗し、IBM370シリーズの互換機(IBM370のプログラムがそのまま動く機械)の開発
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ミニコンピュータ、オフィスコンピュータ
利用範囲を限定したコンピュータで、科学技術計算、事務処理計算を行う、小〜中型で安価なコンピュータです。メインフレームではプログラムの開発には高度な技術が必要でしたが、ミニコンピュータ(又はオフィスコンピュータ)では科学者や技術者が自分でプログラムを組んで動かせることを狙って開発されました。なお、ミニというと現在のパソコンのようなものを思い浮かべるかもしれませんが、これはあくまでもメインフレームに対してミニという意味であり、やはりオフィスの一角を占めるような大きさでした。また、値段も安価とはいえ数百〜数千万の値段がしたようです。
代表的なミニ、オフィスコンピュータ
*DEC社のPDP-1(1960)、PDP-8(1965)、PDP-11(1970)
*ヒューレットパッカード社、NEC、富士通など様々な会社が開発
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パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ
1970年代の半ばまでは、コンピュータの値段は数百万から億の単位の値段がする、とても一般人の手に届くものではありませんでした。しかし、技術の発展(後述のLSI)に伴い、コンピュータを小型で安価に作れるようになり、個人利用の為のコンピュータが開発されるようになりました。現在では一般の家庭にも普及しており、実際にパソコンを所有している方も多いのではないでしょうか。
代表的なパーソナル(マイクロ)コンピュータ
*MITS社のALTAIR(1975)
*アップル社のAPPLE II(1977) (Macintoshの前身)
*NEC社のPC9801シリーズ(1980年代)
*IBM社のIBM
PC(1980年代)
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ワークステーション
エンジニアリング(技術者)向けに開発されたパーソナルコンピュータより高性能な小型のコンピュータです。エンジニアリングワークステーションとも呼ばれます。
代表的なパーソナルワークステーション
*DEC社のVAX
*Sun
Microsystem社のSUN
*日本電気の5300シリーズ
*東芝のAS3000シリーズ
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PDA(Personal
Digital Assistant)
手のひらサイズのコンピュータで、いわゆるノートパソコンよりもさらにサイズが小さく、持ち運びを目的として設計されたコンピュータのことです。電子手帳のような用途で使われることが多いようです。
代表的なPDA
*Apple社のNewton
*シャープのZaurus
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スーパーコンピュータ
特定の目的の為に開発された専用のコンピュータで、他のコンピュータのように汎用的な目的には使えないが、設計された用途の計算を非常に高速に(メインフレームの数百〜数千倍以上)計算することができ、気象予報、軍事目的など非常に高速な計算を必要とされる分野で活躍しています。値段は非常に高価で数十億以上するようです。
代表的なスーパーコンピュータ
*Cray社のCRAYコンピュータ
*イリノイ大学のIlliac
IV
*富士通のVPシリーズ
*NEXのSXシリーズ
*日立のS800シリーズ
コンピュータは時代と共に高性能になっているため、これらのコンピュータの分類とコンピュータの性能は別と考えたほうが良いでしょう。例えば、現在のパーソナルコンピュータは著しく性能が向上しているため初期のメインフレームの性能を軽く凌駕していますし、ワークステーションとほとんど見分けがつかなくなりつつあります。歴史的にどのようなコンピュータが開発され、どのような名前で分類されてきたかを感じ取って下さい。
6. コンピュータを構成する部品による分類
真空管の登場以来、コンピュータは電子式の部品によって構成されてきました。このコンピュータに使われる部品の種類によってコンピュータの世代を分類することができます。
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第一世代 (1940中期〜1950後期)
真空管を使ったコンピュータです。真空管は電磁石を使ったリレーに比べて非常に高速でしたが、電力の消費が激しい、発熱量が多く熱に弱い、寿命が短く部品が壊れやすいという欠点がありました。一説によると、ENIACを起動すると、ENIACのあったフィラデルフィアの町中の電気が暗くなったと言われています。また、コンピュータプログラムのエラーのことをバグと呼びますが、これは真空管が非常に壊れやすく、大きな故障の原因の一つに、コンピュータの機械の中に虫(bug)が紛れ込むというものがあったことがその由来であると言われています。ちなみに漫画の鉄腕アトムのコンピュータの部品は真空管で動いているという設定だったようです。
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第二世代 (1950後期〜1960中期)
真空管の次にコンピュータの部品に使われるようになったのがトランジスタです。トランジスタは半導体と呼ばれる、状況によって電気を通したり通さなかったりする物質のことで、この性質を利用することで、真空管と同じものを非常に小さく作ることができます。
しかもトランジスタは真空管と比べて、消費電力が少ない、発熱量が少ない、故障しにくい、サイズが小さいという多くの利点を持っていたため、真空管にかわって一気にトランジスタがコンピュータの部品に使われるようになりました。トランジスタが電子回路に与えた影響の大きさから、トランジスタの発明は「電子回路の革命」と呼ばれています。
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第三世代 (1960後期〜1970中期)
1960年代になると、トランジスタの代わりにIC(Integrated
Circuit)(集積回路)が発明されました。トランジスタは指の先に乗るぐらいのサイズの部品でしたが、ICはチップと呼ばれる半導体の上にトランジスタや抵抗器などの様々な電子部品を目に見えないミクロのサイズで集積したものです。それまではトランジスタや抵抗器などの電子部品を電気が通る線が焼かれたプリント基板(画像はhttp://www.print-kiban.com/を参照)と呼ばれる大きな板の上でハンダ付けの作業などを行わなければなりませんでしたが、それらすべての部品を1辺約1センチの小さな正方形のチップ上にまとめてしまうことができるようになったのです。また、ICの回路は写真の技術を使って作られているため、全く同じものを大量につくるという大量生産に向いていました。ICの登場によって、計算機の小型化が進み、より高速な電子回路を作ることができるようになったのです。
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第四世代 (1970中期〜現代)
1970年代になるとさらに技術が発達し、一つのチップの中により多くの部品を埋め込むことが可能になりました。これらをLSI(Large
Scale Integrated circuit)、1980年代になってさらに集積度を増したものをVLSI(Very
Large Scale Integrated circuit)と呼びます。LSIやVLSIは、ICの中の部品をさらに小さくし、多くの部品を詰め込んだものだと思って下さい。LSI,VLSIの登場によって、コンピュータを一つの箱の中におさめることが可能になり、パーソナルコンピュータが作れるようになりました。
〜部品の小型化とコンピュータの処理速度〜
コンピュータの部品は電気で動いており、電気は光の速さで流れます。1秒間に何百億回もの計算を行うようなコンピュータがつくられてくると、電気の流れる距離がコンピュータの速度と密接な関係を持つようになります。例えば10億分の1秒では光はたった3mmしか進むことが出来ないため、1秒間に10億回の計算を行うためには、1回の計算で電気が流れる電子回路の電線の長さを3mm以下にする必要があります。このため当然部品が小型になればなるほど電気が流れる距離が短くなるため、コンピュータの速度も向上します。従ってLSIやVLSIの技術によってコンピュータの部品が小さくなればなるほど、コンピュータの速度が速くなるというわけです。
7. 処理形態よる分類
ここまでで、コンピュータを計算機の用途や部品で分類しましたが、それ以外にも、コンピュータがどのような方法で計算処理を行うかによって分類するという方法があります。
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バッチ処理
メインフレームの時代では一つのコンピュータには、コンピュータの頭脳であるCPUが一つしかなく、同時に一つの作業しか行えませんでした。コンピュータを使って複数の処理を行う場合、一つの処理ごとに命令を与えて、その処理が終わるのを待って次の命令をコンピュータに与えるという作業は大変です。そこでバッチ処理と呼ばれる、複数の作業の手順をバッチと呼ばれる形で順番に記述し、それを書かれた順番にまとめて実行するという処理方法が行われました。バッチ処理は例えば企業などの売上データや受注データの集計処理など、一定期間ごとに大量のデータを集めて処理する場合に有効な処理方式で、大量処理が得意なメインフレームで大いに活躍しました。
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タイムシェアリング処理
メインフレームの時代、コンピュータは非常に高価な機械でしたので、コンピュータを一度に一人の人間しか使うことが出来なかった頃はコンピュータの前で順番待ちの行列ができることが良くありました。これは非常に効率が悪いということから、一つのコンピュータを複数の人間が同時に使うことができるようにしようとして考え出されたのがタイムシェアリング処理(時分割処理とも呼ばれる)です。タイムシェアリング処理では、コンピュータの処理時間をユーザごとに分割することで、同時に複数の人間がコンピュータを使うことができるようにする処理のことです。通常のシステムでは以下のように、A,B,Cの3人の人がコンピュータを使って作業をする場合、BさんはAさんの作業が終わるまで、CさんはAさんとBさんの作業が終わるまで待つ必要があります。
Aさんの作業 |
Bさんの作業 |
Cさんの作業 |
→時間の経過 |
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|
一方タイムシェアリングシステムではコンピュータの作業を以下のように細切れにし、それぞれのユーザが順番に細切れにした時間の間だけコンピュータを利用できるようにします。この細切れにする時間を短くすることで、当然ですが一人一人の処理速度は1/3に落ちますが、あたかもAさん、Bさん、Cさんはそれぞれ同時にコンピュータをアクセスするようにみせかけることができるのです。
A |
B |
C |
A |
B |
C |
A |
B |
C |
A |
B |
C |
A |
B |
C |
... |
→時間の経過 |
タイムシェアリング処理では、ユーザはコンピュータにアクセスするためだけのCPUを持たない非インテリジェント端末と呼ばれる端末複数用意し、それらの端末を使って複数のユーザが同時にコンピュータとアクセスを行いました。
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オンライントランザクション処理
ネットワークの発達に伴い、コンピュータ同士を通信回線でつなぐことが一般になりました。それまでは、コンピュータを使うためにはコンピュータの前まで人間が移動しなければなりませんでしたが、通信回線で繋がったコンピュータ端末を利用することで離れた場所からコンピュータにアクセスすることが可能になったのです。このようにコンピュータ回線を使って少量のデータを遠隔地から処理することをオンライントランザクション処理と呼びます。オンライン(on
line)のラインとは通信回線のことをあらわしています。
具体的な例としては、新幹線や航空機の座席予約システム、銀行のATMなどが挙げられます。例えば新幹線の窓口で指定席を頼むと、駅員が機械を操作して予約を行いますが、その機械は新幹線の予約状況を管理するコンピュータに専用の通信回線を使ってつながっており、実際の処理を行うコンピュータからはなれた場所から予約などの処理を行うことができるのです。
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リアルタイム処理
きわめて短時間に与えられた命令をこなす処理のことをリアルタイム処理と呼びます。例えば、車のブレーキはブレーキペダルを押すと、すぐにブレーキが効いてくれなければ全く意味をもちません。リアルタイム処理は、命令した処理を確実に一定時間内に処理することが可能なように設計されたコンピュータシステムのことです。リアルタイム処理はこのように応答時間の短い電力系制御に使われています。
処理形態による分類の場合、コンピュータによっては、上記の分類に複数あてはまるコンピュータがあります。例えば、新幹線や航空機の座席予約システムはオンライントランザクション処理システムという分類で紹介しましたが、同時に複数の人が利用できることから、タイムシェアリングシステムであるとも言えます。
〜参考〜
コンピュータの歴史や分類については教科書の1章もあわせて参考にして下さい。
また、このプリントや教科書だけでは物足りないという方は、Webや書籍などを参考にすると良いでしょう。以下に一つ参考になるウェブページのURLを挙げておきます。
http://www.ffortune.net/comp/history/
質問のメールなどは、 sigesada@.hosei.ac.jp までお願いします。
授業の資料の最新版は http://www.edu.i.hosei.ac.jp/~sigesada/ にあります。